鹿児島地方裁判所 昭和57年(ワ)147号 判決 1983年11月28日
原告
伊集院也一
被告
有限会社鹿児島銘木ガーデン
主文
一 被告らは原告に対し、各自金八〇万六三四〇円およびこれに対する昭和五七年六月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は第一、第三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは原告に対し、各自金七八四万六七六〇円及びこれに対する昭和五七年六月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告有限会社鹿児島銘木ガーデン(以下「被告会社」という)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
原告は次の交通事故(以下「本件事故」という)により、後記損害を被つた。
(1) 日時 昭和五四年六月四日午後九時五五分頃
(2) 場所 鹿児島市新町三番九号日南物産前交差点
(3) 加害車 普通乗用自動車
(4) 右運転者 被告牧早之進(以下「被告牧」という)
(5) 被害者 原告
(6) 事故の態様
原告が自転車に乗つて大門口通から浜側に抜けるため直進し、交差点内に進入したとき、これと直交する道路を原告進行方向の左方より右折してきた被告牧運転の普通乗用車に左側面より衝突された。
(7) 結果
本件事故により、原告は頭部外傷、胸部打撲症、左膝関節部打撲症により、昭和五四年六月四日から同年八月一〇日まで鹿児島市立病院脳神経外科に通院し、同年八月七日から同月二八日まで同病院整形外科に入院と同時に同年六月一六日から同五六年五月一八日まで同病院同科に通院し、左膝関節内側半月板損傷の疑いで、外傷性頸部症候群、左膝関節打撲症の治療を受けたが、現在も左膝の疼痛で脳まされており、後遺症等級一四級一〇号に認定された。
2 責任原因
(1) 被告牧
本件事故は被告牧が運転中、金策に頭を脳ませて注意力散漫となり、交差点を右折するにあたり、左右確認、前方注視を怠つた過失により発生したものであるから、民法七〇九条によつて原告の後記損害を賠償する義務がある。
(2) 被告会社
被告会社は、本件加害車を所有しこれを自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法三条によつてその運行によつて生じた後記損害を賠償する義務がある。
3 損害
(1) 慰藉料 金二三〇万円
<1> 入・通院分 金一七〇万円
<2> 後遺症一四級一〇号 金六〇万円
(2) 通院費 金一五万一四二〇円
昭和五四年六月から同五五年一月まで
(3) 入院雑費 金一二万二〇五三円
(4) 逸失利益 金七二七万一七七七円の内金七二二万三二八七円
原告は事故当日から今日まで傷害及び後遺症のため労働できなかつた。原告は事故当時食料品と野菜の小売商を営んでいたが、個人経営で原告の申告をもとにしての所得証明書であるところから、現実収入よりも過少(年収金二四万七六〇〇円)となつている。ところで年齢別平均給与額によると、事故当時原告は六〇歳でその平均賃金は年間金二四五万九四〇〇円である。
<1> 昭和五四年六月四日から同五七年一月三一日までの休
業損害 2,459,400(円)×972/365=6,549,415(円)
<2> 将来の損害
就労可能年数 七年
ホフマン係数 五・八七四三
労働能力喪失率 一〇〇分の五
2,459,400(円)×5.8743×5/100=722,362(円)
<1>、<2>の合計は金七二七万一七七七円であるが、内金七二二万三二八七円を請求する。
4 損害の填補 金一九五万円
原告は自賠責保険より金一九五万円を受領したので、前記3の(1)ないし(4)の損害総額金九七九万六七六〇円から右填補額金一九五万円を控除した残額は金七八四万六七六〇円である。
5 よつて原告は被告会社に対し、自賠法三条に基づき、被告牧に対し民法七〇九条に基づき各自金七八四万六七六〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年六月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告会社の答弁
1 請求原因第1項は不知
2 同第2項(2)中、本件加害車が被告会社の所有名義になつていることは認めるが、被告会社に責任があるとの主張は争う。
3 同第3項(1)ないし(3)は不知、同項(4)の主張は争う。年収金二四万七六〇〇円の申告をしていながら月収金二二万三五〇〇円の収入をすることは許されない。
三 被告会社の主張
訴外木之下成實が自己使用のため自動車を購入するにあたり、同人が信販会社のブラックリストにのつているため購入できないところから、被告会社に無断で、同人が被告会社の経理を担当していたことを奇貨として被告会社名を使用して加害車を購入したものであり、被告会社は右事実を知らなかつた。右木之下が被告会社名義の手形を振出していたので仕方なく被告会社が右木之下から受領した金で手形決済していたにすぎない。
四 被告会社の主張に対する認否
被告会社の主張は争う。被告会社は右木之下の社名使用を事後承諾していたものである。
第三証拠〔略〕
理由
一 成立に争いのない甲第一号証の一ないし七、第三、第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、請求原因第1項(1)ないし(6)及び(7)中、原告が昭和五四年六月四日鹿児島市立病院脳神経外科で頭部外傷左膝打撲症で治療日数一〇ないし一四日の診断を受けたこと、脳外科に通院していたが足の痛みがとれず同病院整形外科に二〇日間入院し、退院後も通院を続け、昭和五七年九月二二日、外傷性頸部症候群、右膝関節半月板損傷、腰椎々間板症の診断を受け、右病院で治療を受け、現在も通院しているが左膝の疼痛で悩まされ、後遺症一四級一〇号に認定されたこと、並びに第2項(1)の事実(被告牧の責任原因事実)が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 そこで被告会社の責任の存否につき検討する。
証人木之下成實の証言及び被告代表者本人尋問の結果(右結果中、後記採用しない部分を除く)によれば、被告会社の取締役で経理を担当していた木之下が信販会社のブラックリストにのつていたため、自己名で自動車を購入することができないため、被告会社の名義を無断借用して加害車を購入し、右購入代金は被告会社振出の約束手形で支払つたこと、第一回の手形決済の際、被告会社振出の約束手形を無断で発行したことが、被告会社の代表取締役別府一義に発覚し、別府は木之下をしかり被告会社名義を変更するよう求めたこと、しかし第二回以降の手形決済の際にも、木之下が被告会社振出の約束手形で本件自動車の代金を支払い続けたにもかかわらず、被告会社は木之下に対し被告会社名で手形を振出すことを禁止しなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定事実に反する被告会社代表者本人尋問の結果は採用しない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によると被告会社は木之下が無断で被告会社名で本件自動車を購入し、被告会社振出の約束手形で右代金を決済していることを知つた時点において、木之下に対し被告会社の名義の使用禁止ないし名義の変更を求めたことがうかがえるも、現実に被告会社の名義の使用をやめさせることをしなかつたものであるから、被告会社は木之下による被告会社の名義使用を黙認していたものと認められ、従つて本件加害車の保有者としての責任を免れえない。
三 次に原告の損害について判断する。
1 慰藉料
本件事故による傷害の程度、入通院の期間、後遺症の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると金二〇〇万円をもつて相当とする。
2 通院費
前記認定のとおり、原告は鹿児島市立病院に少なくとも四年間(実通院日数は一か月一五日)通院し、バス代として一日平均二〇〇円を要したものと認めるのが相当であるから、合計金一四万四〇〇〇円を要したと認められる。
3 入院諸雑費
入院一日あたり一〇〇〇円を要すると認めるのが相当であり、入院日数は前記認定のとおり二〇日間と認められるから合計金二万円を要したと認めるのが相当である。
4 逸失利益
現実の収入の明らかでない無職者については喪失稼働能力の評価資料として原告主張の統計資料を用いた抽象的算定を行う余地があるといえるが、成立に争いのない甲第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時、食料品及び野菜の小売商を営んでいたこと、昭和五四年度の原告の営業所得(純利益)は年収二四万七六〇〇円であることが認められ、原告のような右職者の逸失利益は、現実の収益と稼働可能年数によつて算定され、現実の収益が税金申告の関係で過小であるとしても、現実の収益を基準に算定すべきであり、統計資料を用いた算定を行うべきではない。成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五六年七月九日本件事故による後遺障害一四級一〇号にもとづき千代田火災海上保険株式会社から保険金七五万円を受領したことが認められ、右事実によれば、原告の後遺症は遅くとも昭和五六年七月当時において固定したものと認められる。昭和五六年七月(原告の年齢63年)からの就労可能年数は七年、ホフマン係数は五・八七四、労働能力喪失率は一〇〇分の五であるから、原告の逸失利益を計算すると次のとおりである。
(1) 昭和五四年六月四日から同五六年七月九日まで
247,600(円)×766/365=519,620(円)
(2) 将来の逸失利益
247,600(円)×5.874×5/100=72,720(円)
5 以上の合計金二七五万六三四〇円
6 損害の填補 金一九五万円
原告本人尋問の結果により認められる。
四 以上の次第であるから、被告らは原告に対し各自金八〇万六三四〇円およびこれに対する昭和五七年六月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告の本訴請求は右支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 日野忠和)